こんばんは。
今日はブルーベリーと農薬について考えてみたいと思います。
以前の圃場では、農薬は単純に対処療法的に使っていました。それが「NGだった」わけではありません。ブルーベリーをしっかり観察し、発生している害虫を駆除する。
それが一般的な使い方です。
しかし、新しい圃場は耕作放棄地の真ん中にあるような場所で、害虫がたくさん来ます。何らかの対策をしないとブルーベリーはまともに育ちません。
しかし以前のような単純かつ対処療法的な散布の仕方では
- 効果があったりなかったりでムラが起きる
- 受粉を助けれくれる訪花昆虫にまで影響があった
- 収穫期〇〇日前までの農薬をうまく使えなかった
こんな経験をしてきました。そこで害虫が来る圃場に対してどのようなアプローチをとればいいのか?という事を記事にしてみたいと思います。
ブルーベリーに来る害虫
ブルーベリーにくる主な害虫
ブルーベリーの来る害虫は色々いますが、ここではメジャーなものをとりあげます。
- シャシャンボツバメスガ
- マメコガネ
- イラガ
- オウトウショウジョウバエ
- ハマキムシ
- カミキリムシ(テッポウムシ)
- チョウ目幼虫(ケムシ)
- チャミノガ(ミノムシ)
メジャーなものは以上です。ブルーベリーを栽培していると、毎年いろいろな害虫がやってきます。
害虫と一言でいっても、
- 葉を食べるもの
- 新梢を食べるもの
- 幹を食べるもの
- 果実を食べるもの
- 樹液を吸うもの
- 細根を食べるもの
その被害の出方はさまざまです。
特に厄介なのは、新しく展開した柔らかい葉や新梢を狙う害虫です。ブルーベリーは春だけでなく、夏場の二次伸長、秋枝の伸長と、年に何度か新しい枝葉を伸ばします。
この「柔らかい部分」が出てくる時期は、害虫にとっても格好の餌場になります。
例えばシャシャンボツバメスガは、新葉や新梢付近を食害します。また、シャクガ類やウワバ類の幼虫も葉を食べます。イラガ類は葉裏に集団で発生することがあり、気付くのが遅れると短期間で大きく食害されることがあります。
果実については、オウトウショウジョウバエのように果実そのものへ被害を与える害虫もいます。さらに、マメコガネは葉を食害するだけでなく、果実を傷つけて吸汁することがあります。
このように、ひとくちにブルーベリーの害虫といっても、加害する場所も発生時期も違います。
そのため、「とりあえず定期的に農薬を撒いておけば良い」という考え方ではなく、どの害虫が、どの時期に、どこを狙っているのかを把握することが大切です。
※写真を載せようと思ったのですが、PCを変えてしまい手元にありません。データをうまくサルベージできればいいのですが。それに昆虫の写真は気分を害される方もいると思うのでここでは掲載しません。
実際に当園で確認した害虫
2025・2026と観測して、当園で確認した害虫としては、
- シャシャンボツバメスガ
- シャクガ科、あるいはウワバ類と思われる幼虫
- マメコガネ
などがありました。
一方で、例年警戒しているイラガやチャミノガについては、今年はまとまった発生を確認できませんでした。
この違いは、今後の防除体系を考えるうえでとても重要です。
農薬の登録表を見ると、ブルーベリーには非常に多くの害虫名が並んでいます。しかし、実際の圃場では、そのすべてが毎年発生するわけではありません。
発生していない害虫のために農薬を撒く必要はありませんし、少数発生であれば捕殺で済ませられる場合もあります。例えばイラガ対策としてコテツフロアブルを使用することを考えていますが、今年のようにイラガが発生しなければ、散布する理由はありません。
逆に、複数株でまとまった発生を確認した場合には、初めて薬剤散布を検討すれば良いと思っています。
マメコガネについても同様です。
以前の圃場ではフェロモントラップで大きな成果を上げた経験があります。今年はまとまった発生を確認できませんでしたが、今後再び発生数が増えるようであれば、フェロモントラップの導入も候補に入れたいと思っています。
要するに、まず重要なのは「自分の圃場では何が発生しているのか」を知ることです。一般論としての害虫リストよりも、実際の圃場での観察の方が、防除計画にはずっと役に立ちます。
当園で使う農薬について
当園で使う農薬と、それぞれの役割
当園で使用している殺虫剤は主に以下の通りです。
BT剤
エクシレルSE
ディアナWDG
ベニカ水溶剤
コテツフロアブル
それぞれ、効く害虫も違えば、作用する場所も違います。農薬を選ぶ時に大切なのは、「強い薬かどうか」だけではありません。対象害虫、収穫前日数、使用回数、訪花昆虫への影響、残効性、そして薬剤抵抗性まで考える必要があります。
BT剤(主にデルフィン・ゼンターリ)
BT剤はチョウ目幼虫がBT由来の毒素タンパク質を食べると、中腸が障害され、摂食停止から死亡へつながります。
いわゆる食毒型の農薬です。当園では、開花期間中の基本剤として使う予定です。理由は、ケムシ・イモムシ(チョウ目幼虫)に対して高い有効性を示しつつ、訪花昆虫への影響を比較的抑えやすいからです。
エクシレルSE
有効成分はシアントラニリプロールです。
昆虫の筋肉にあるリアノジン受容体に作用し、カルシウム制御を乱すことで筋肉を麻痺させ、速やかに摂食を止めます。
BT剤も食べさせて効かせる場面が多い農薬ですが、作用機構は全く違います。BT剤は主に中腸。エクシレルSEは筋肉。
この違いは薬剤抵抗性管理の面でも重要です。
また、エクシレルSEは葉面浸透性や残効性に優れるという特徴があります。今年は6月23日に散布し、その後8月12日まで約50日間、強い殺虫剤を使わずに済みました。
もちろん、「50日間ずっと薬効が残っていた」と断定はできません。しかし、散布時に害虫密度を大きく下げ、その後の発生も抑えられたことで、7月中の被害を低く維持できた可能性は十分あると思っています。
ディアナWDG
有効成分はスピネトラムです。神経系のニコチン性アセチルコリン受容体に作用し、異常興奮から麻痺、摂食停止へつなげます。
当園では、7月の収穫開始期に使用する候補としています。この時期はオウトウショウジョウバエの対策も重要になるためです。
ベニカ水溶剤
こちらも神経系へ作用しますが、ディアナWDGとは異なる作用点を持っています。収穫45日前までという使用制限があるため、収穫期には使いにくい薬剤です。
そのため当園では、収穫終了後の8月の盆過ぎ以降に使っています。
コテツフロアブル
ミトコンドリアのエネルギー産生を阻害するタイプの農薬です。当園では主にイラガ対策として考えていますが、イラガの発生が確認できなければ使用しません。
つまり、年間計画に固定する薬ではなく、発生時だけ使う「切り札」のような位置付けです。
どのタイミングで撒くか
私の農薬防除は
- 月齢・害虫飛来期
- ブルーベリーの生育ステージ
と合わせて考えて散布しています。
月齢に関して
昆虫の発生は満月・新月に多く、産卵から数日経ち孵化した(4~6日後)幼齢昆虫を一掃する仕組みになっています。
ブルーベリーの生育ステージに関して
農薬防除で考えるべきステージは「一次伸長期」「二次伸長期」「訪花昆虫の存在時期」「収穫時期」「秋枝伸長時」などがあります。
それぞれのステージごとに注意するべき点
当園では、今年の開花期間がおよそ4月15日から5月28日まででした。そして、この期間は幼葉の展開時期ともほぼ重なります。つまり、害虫から新葉を守りたい時期と、訪花昆虫を守りたい時期が重なっています。
そこで4月から5月末までは、基本的にBT剤だけで対応することにしています。
- 4月第2週以降にBT剤
- 5月上旬にもBT剤
- 5月中旬にもBT剤
この時期は新しい葉が次々と展開します。
薬剤を散布しても、その後に新しく出た葉には薬剤が付着していません。そのため、幼葉の展開速度を見ながら、ある程度こまめに防除する必要があります。
- 6月上旬にはエクシレルSEを散布します。
この頃には一次伸長が落ち着き、葉がある程度出そろっています。そのため、残効性のあるエクシレルSEを使うには良いタイミングだと考えています。
- 6月中旬は、害虫の発生状況を見て、必要ならBT剤。
- 7月上旬にはディアナWDGを散布しています。
この時期からは収穫が始まるため、葉を食べる害虫だけでなく、オウトウショウジョウバエも意識します。
- 7月中旬は再び発生状況を確認します。
チョウ目幼虫が見られればBT剤。イラガが出ていればコテツフロアブル。この頃から二次伸長が始まるため、新しく伸びた枝葉を守る意味でも重要な時期です。
- 8月上旬にはエクシレルSE。
- 8月中旬は必要に応じてBT剤。
- 9月上旬は、収穫が終わっていることを前提にベニカ水溶剤。
- 9月中旬には秋枝の伸長が始まるため、必要ならBT剤。
- 10月上旬には、発生状況を見てエクシレルSEを使い、その年の殺虫剤散布を終える予定です。
- そして12月から1月には、休眠期防除として石灰硫黄合剤を使用。
ただし、この年間計画は「全部必ず撒く」という意味ではありません。重要なのは、「散布予定日」ではなく「防除判定日」と考えることです。
害虫がいなければ撒かない。少数なら捕殺する。明らかに増えていれば農薬を使う。
これが基本です。
薬剤抵抗性(殺虫剤抵抗性)をどのように管理するか
薬剤抵抗性とは何か
同じ農薬、あるいは同じ作用機構の農薬を繰り返し使うと、その薬剤が効きにくい個体が生き残る可能性があります。その個体が繁殖し、世代を重ねることで、圃場全体で薬剤が効きにくくなる。
これが薬剤抵抗性です。
そこで重要になるのがIRAC分類です。
IRAC分類とは
IRAC番号は、殺虫剤が昆虫のどこに、どのように作用するかを分類したものです。農薬の商品名が違っていても、IRAC番号が同じなら、基本的には同じ作用機構として考えます。
例えば、エクシレルSEとフェニックスフロアブルは商品名も有効成分も違います。しかし、どちらもIRAC 28です。
そのため、
エクシレルSE(1回目散布)
→フェニックスフロアブル(2回目散布)
→エクシレルSE(3回目散布)
と使っても、
28
→28
→28
という並びになります。
見た目上は薬を替えていても、抵抗性管理としては十分なローテーションとは言えません。
当園でのローテーション
当園では、できるだけ作用機構を分散させる方針です。
| 薬剤名 | IRAC | 作用 | 主な対象 | 使用時期の考え方 |
|---|---|---|---|---|
| BT剤(デルフィン等) | 11A | 中腸を障害 | チョウ目幼虫、イラガ類など | 4〜5月の訪花期、新梢・幼葉展開期の基本防除 |
| エクシレルSE | 28 | 筋肉を麻痺 | ケムシ類、オウトウショウジョウバエ、アブラムシ類など | 6月上旬、8月上旬、必要に応じて10月上旬 |
| ディアナWDG | 5 | 神経系に作用 | ハマキムシ類、オウトウショウジョウバエなど | 7月上旬の収穫開始期、オウトウショウジョウバエ対策 |
| ベニカ水溶剤 | 4A | 神経系に作用 | ケムシ類、アブラムシ類、オウトウショウジョウバエなど | 収穫終了後の9月頃 |
| コテツフロアブル | 13 | エネルギー産生を阻害 | イラガ類、オウトウショウジョウバエなど | イラガ発生時など、必要な場合のみ使用 |
このように並べると、作用点がかなり分散しています。
- BT剤は中腸。
- エクシレルSEは筋肉。
- ディアナWDGは神経系。
- ベニカ水溶剤も神経系ですが、ディアナとは異なる作用部位。
- コテツフロアブルはミトコンドリアのエネルギー代謝。
単純に「商品名を変える」のではなく、「作用の仕方を変える」という考え方です。また、BT剤については、製品を変えてもIRACでは同じ11Aです。
そのため、別のBT剤を使ったからといって、別系統の農薬へ切り替えたことにはなりません。
菌株や毒素構成に違いがあるため、全く意味がないわけではありませんが、本格的な抵抗性管理としては、IRAC番号そのものを変える方が重要です。
当園では、BT剤を基本剤として使いつつ、その間に28、5、4Aなどを挟む形でローテーションしていきます。
無農薬の真実
農薬について話をすると、どうしても極端な考え方になりやすい気がします。
「農薬は危険だから使わない方が良い」「無農薬こそ正しい」
という意見もあれば、
「害虫がいるならすぐ農薬を撒くべき」
という考え方もあります。
しかし、実際に栽培している立場からすると、どちらも少し違うと思っています。農薬を撒くこと自体が目的ではありません。無農薬であること自体が目的でもありません。
目的は、ブルーベリーを健全に育て、安定して収穫することです。
そして、ここで注目すべきは「植物自身にも害虫に対する防御反応がある」ということです。
植物は害虫に葉を食べられると、ただ一方的に食べられているだけではありません。食害を受けた組織では、ジャスモン酸などを中心とした防御シグナルが働き、フェノール類やタンニンなどの二次代謝産物を増やしたり、害虫が食べにくくなるような反応を起こすことがあります。
植物によっては、食害を受けたことをきっかけに揮発性物質を放出し、害虫の天敵を誘引するような反応も知られています。
つまり、植物にも「食べられたら何もしない」のではなく、ある程度の防御システムが備わっています。ブルーベリーのようにフェノール性化合物を多く含む植物でも、食害やさまざまなストレスによって代謝が変化することは十分考えられます。
ただし、ここで注意したいのは、
「食害を受けた方が植物に良い」
という意味ではないことです。防御物質を作るにもエネルギーが必要です。植物が防御へリソースを使えば、その分だけ新梢の伸長や果実肥大、根の成長などに使える資源が減る可能性があります。
少し葉を食べられた程度なら大きな問題にならなくても、継続的に強い食害を受ければ樹勢は低下します。
特にブルーベリーでは、新しく展開した葉や新梢を大量に失えば、その年の成長だけでなく翌年以降の結果枝形成にも影響する可能性があります。
そのため私は、
「食害をゼロにする」ことも、
「食害をすべて放置する」ことも、
どちらも極端だと思っています。
多少の食害であれば許容する。植物自身の防御反応も働くでしょうし、葉が数枚食べられた程度で樹が大きく弱るわけでもありません。
しかし、シャシャンボツバメスガやシャクガ類などが増え、新梢や幼葉への食害が広がり始めた場合には、防除する意味があります。
ここで農薬を使うか、捕殺するか、あるいはBT剤のような選択性の高い農薬を使うかを判断します。
また、「無農薬だから植物本来の力が引き出される」「農薬を使うと植物が弱くなる」といった単純な話でもありません。
植物の防御反応は、食害や病原菌などの刺激によって起こる生理反応です。農薬を使わなかったから自動的に植物が強くなるわけではありません。
逆に、適切に害虫密度を抑えることで、植物が無駄に防御へエネルギーを使わず、生育や果実生産へ資源を回せるという考え方もできます。
結局のところ、「農薬を使ったか、使わなかったか」だけで栽培の良し悪しを判断することはできません。
大切なのは、
害虫がどの程度いるのか。
どの部分が食害されているのか。
樹の生育に影響するほどなのか。
防除する必要が本当にあるのか。
を見極めることです。
害虫がいなければ撒かない。少数なら捕殺する。多少の食害は許容する。しかし、被害が広がるようであれば農薬を使う。私はこのくらいの距離感が、ブルーベリー栽培では一番現実的ではないかと思っています。
無農薬は偉い。農薬を使うのは悪い。逆に、農薬を使えば安心。
そういう単純な話ではありません。植物自身の防御能力も利用しながら、必要な時だけ人間が手を貸す。私はそのくらいの考え方で、防除しています。
終わりに
今回記事にした内容は「当園での防除体系」です。これをこのままコピペしてどんな圃場でも大丈夫!というわけではありません。
防除体系は、日々ブルーベリーを観察して毎年アップデートしていかなければなりません。
結局一番大切なのはきちんと観察すること。だと思います。そして農薬を使うにあたって改めて感じたのは、農薬防除は「何月に何を撒く」と決めるだけでは不十分だということです。
- ブルーベリーの開花
- 新梢や幼葉の展開
- 収穫時期
- 害虫の発生
- 訪花昆虫
- 薬剤の残効性
- 収穫前日数
- 使用回数
- IRACによる作用機構
これらを全部合わせて考える必要があります。
農薬は便利ですが、使えるから使うものではありません。害虫がいて、被害が予想され、それを防ぐ必要がある時に使うものです。
ブルーベリー栽培は毎年同じようで、毎年違います。害虫の発生も、天候も、樹の生育も変わります。
だからこそ、防除体系も固定せず、その年の圃場を見ながら少しずつ調整していくことが大切なのだと思っています。






















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